- 「ぶどう膜」は血管に富む眼内の組織で、炎症が起こりやすいところです。ぶどう膜に炎症が起こると「ぶどう膜炎」になります。
- 症状は、視力低下、目がかすむ、蚊が飛んで見える、ゆがんで見える、目の充血、眼痛などです。
- ぶどう膜炎にはサルコイドーシス、ベーチェット病、原田病などが含まれますが、原因不明のものが約4割含まれます。
- ぶどう膜炎は感染によるものと免疫異常によるものに大別されます。いずれも全身検査を含む多くの検査が必要です。
- ぶどう膜炎の中には治療が困難なものや再発を繰り返すものがあり、長期にわたる気長な治療が必要になることも多いです。
- 治療は、抗菌薬(抗生剤、抗ウイルス薬)、抗炎症薬(ステロイド、非ステロイド)などです。
「ぶどう膜」とは目の中の組織名で、虹彩(茶色目)、毛様体(虹彩の後ろ側の部分で眼の栄養水を作っている組織)、脈絡膜(網膜の裏にある茶色い膜で、網膜を栄養・保護している組織)の3つを併せたものです。ぶどう膜の一部あるいは全部に炎症が起こる病気を総称して「ぶどう膜炎」といいます。
虹彩・毛様体だけに炎症が限局している場合を前部ぶどう膜炎あるいは虹彩毛様体炎(あるいは虹彩炎)と呼び、脈絡膜だけに炎症が起こっている場合を後部ぶどう膜炎、両方ともに炎症が起こっている場合を汎ぶどう膜炎と呼びます。
ぶどう膜炎の症状は、眼球のどの部位に異常があるのか、どの程度の異常があるのかによって異なります。
ぶどう膜炎の主な症状には以下のようなものがあります。
➀ 視力低下
眼がかすむもの。炎症によって前房(虹彩付近のスペース)や硝子体(水晶体の後ろにあるゼリー状の組織)が濁るために起こる症状です。
② 飛蚊症
黒いすす、虫、蚊、汚れのようなものが見えるもの。硝子体の中に濁り(硝子体混濁)があるときの症状です。
③ 結膜充血
結膜(白目)の充血。虹彩や毛様体の炎症が強いときに見られます。
④ 眼が痛い
虹彩や毛様体の炎症が強いときや、眼圧(目の硬さ)が急に上昇したときに起こります。後、強膜炎でよく眼痛が見られます。
⑤ 変な見え方
物がゆがんで見える、小さく見える、色が変わって見える、が多いです。網膜に浮腫(むくみ、腫れること)や、炎症による漿液性網膜剥離(網膜と脈絡膜の間に水がたまる)があるときに起こる症状です。
ぶどう膜炎はその原因により、感染によるものと、免疫システム(体の防衛能力)の異常により生じることの2つに大きく分けられます。
➀ 感染によるぶどう膜炎(感染性ぶどう膜炎)
細菌・結核菌・梅毒・真菌(カビ菌)・ウイルス(ヘルペスウイルスなど)・寄生虫(トキソプラズマ・トキソカラ)により引き起こされます。感染の原因によって治療薬が異なるので、原因となっている微生物を特定することは非常に重要です。そのため、血液検査や眼内液(前房水や硝子体液などの眼内の水を採取)の検査を行います。保険適応外の検査も含まれますので費用については担当医にご確認ください。
② 免疫異常によるぶどう膜炎(非感染性ぶどう膜炎・自己免疫性ぶどう膜炎)
「免疫」とは本来、外から入ってきた細菌やウイルスなどを「異物」として認識して撃退するシステムですが、これが狂うと自分自身の目の細胞を「異物」と誤認して攻撃することがあり、さまざまな体の不具合をもたらします。免疫異常によるぶどう膜炎には、ベーチェット病やサルコイドーシス、原田病などがありますが、糖尿病、腎臓病、関節リウマチなどの全身疾患の一症状として起こることも多いので、全身に隠れた病気がないかを調べる必要があります。リウマチがベースにあると強膜炎になりやすいです。
診断がつくまでに血液検査や画像検査(レントゲンやCTスキャンなど)などの検査を繰り返して行ったり、内科や皮膚科に診察を依頼することがあります。なお、現在、治療を受けている体の病気や薬の内容、既往歴(過去に指摘された目や体の病気)は必ず申し出るようにしてください。
ぶどう膜炎は多くの種類に分けられます。それらはさまざまな検査を行って診断していきます。しかしながら、全ぶどう膜炎の約4割は詳しく調べても原因は特定できません。しかし、原因が特定できなければ治療ができないわけではありません。約2割は感染症で、ヘルペスウイルスが最も多く見られます。目の所見や検査から得られたデータに基づき、ぶどう膜炎の状態に応じた治療を行い、治療への反応をみてさらなる適切な治療へと進めていきます。
ぶどう膜炎の検査は、視力検査、眼圧検査、光干渉断層(OCT)、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、隅角検査など行います。
必要があれば視野検査、蛍光眼底造影検査や血液検査も行います。
ぶどう膜炎は特徴的な目の所見が見られます。ベーチェット病、サルコイドーシス、原田病は、日本における三大ぶどう膜炎と言われています。
ベーチェット病は網膜に激しい炎症と出血が見られて(写真1)、視力低下が起こります。原田病は眼底に網膜剥離が見られます(写真2)。このように眼底に炎症が起こると、網膜浮腫(網膜の水ふくれ : 写真4)や網膜の血管に炎症が見られます(写真3)。ウイルスで多いのはヘルペスウイルス属で、サイトメガロウイルス網膜炎は比較的多い疾患です(写真5)。ぶどう膜炎の類似疾患で多いのは、強膜炎です(写真6)。広い範囲の白目のところに充血と痛みがあり、再発が多いのが特徴です。
血液の中にある白血球の血液型をHLAといいます。ぶどう膜炎ではその種類により頻度の高いHLAタイプがあります。ぶどう膜炎の診断の補助になりますので、採血してHLA検査を行うことがあります。例えば、原田病はほぼ100%がHLA-DR4が陽性になります。ベーチェット病はHLA-B51/A26を持っている方が多いです。これは保険外の検査となりますので費用については担当医にご確認ください。
ベーチェット病は網膜に激しい炎症と出血が見られます。再発を繰り返し、視力が段々落ちてきます。
原田病は眼底に網膜の下に水が溜まる炎症性の網膜剥離が見られ、歪みや視力低下が起こります。
ぶどう膜炎の多くの疾患に網膜血管炎が見られます。蛍光眼底造影検査で判別できます。
眼底に炎症が起こると網膜の水ぶくれが起こり、歪みや視力低下が起こります。網膜の断層検査で判定できます。
サイトメガロウイルス網膜炎は免疫不全患者に見られる疾患で、網膜に出血や白斑(黄色い病巣)見られます。
強膜炎は白目のところに充血と痛みがあり、再発が多いのが特徴です。
ぶどう膜炎の治療の方針を決定するためには、まず原因を検索する=診断することが重要です。感染性ぶどう膜炎の場合には原因となっている病原微生物(ウイルス、細菌、真菌など)に対する治療と、感染により二次的に起こる炎症に対する治療を行います。非感染性ぶどう膜炎の場合、炎症がどの部位にどの程度あるかによって治療は異なってきます。炎症を抑える薬として一番強力なのがステロイドという薬剤です。ぶどう膜炎の中には、治療が非常に困難なものや再発を繰り返すものがありますので、病状にあわせて長期間治療を続けることが重要です。
➀ 炎症が前眼部のみの場合(前部ぶどう膜炎)
点眼治療が中心となります。ステロイドや非ステロイド系の抗炎症薬の点眼、あるいは抗菌薬の点眼を組み合わせて治療をしていきます。炎症がかなり強い場合には、ステロイドの塗り薬(眼軟膏)を使ったり、結膜(白目の部分)にステロイドの注射を打ったりする場合もあります(結膜下注射)。散瞳薬の点眼を併用することがあります。
② 炎症が脈絡膜や網膜に及んでいる場合(後部ぶどう膜炎、汎ぶどう膜炎)
炎症が目の奥まで及んでいる場合には点眼だけでは効果が不十分で、内服薬や目の奥(結膜テノン嚢下または眼内)へ注射をする必要があります。また、重症の場合には点滴治療を行う場合があります。使用する薬剤は病気の種類や状態によって異なりますが、多くはステロイドや非ステロイドの抗炎症薬が中心となります。そして病状によっては、さらに多くの薬剤を使います。最近では生物製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ)という新しいぶどう膜炎の治療があり、ぶどう膜炎に効果を示します。
ステロイドの主な副作用は、胃炎、骨の異常(骨粗しょう症など)、精神異常(眠れないなど)、糖尿病、感染などがあります。ステロイドは副作用が多く怖い薬である印象を持っている人が多いと思います。しかし炎症を抑える力は強く、ぶどう膜炎の治療にステロイドは欠かすことができません。ですから必要以上にステロイド薬を怖がらず、うまく活用していくことが重要です。特に炎症の強いときにはステロイドを使ってすみやかに炎症を鎮めないと目の神経が障害されて元に戻らなくなる恐れがあります。最近では生物製剤という新しいぶどう膜炎の治療があり、それらも感染などの副作用があり注意が必要です。
炎症が持続することにより、目の中に膜が張ってきたり(網膜上膜)、眼内に出血が起こったり(硝子体出血)、網膜が剥がれてきたりすることがあります(網膜剥離)。この場合には手術による治療が必要です。さらに、炎症やステロイド剤のため白内障や緑内障などが起こってくることがあり、それに対する薬物治療や手術治療が必要になる場合もあります。
ぶどう膜炎は、初期の適切な診断と治療が、より良い予後(=視力回復)のために重要です。
ぶどう膜炎は、再発や慢性化する場合も多いです。
本人はもちろん、家族も病気を十分に理解して、根気強く治療を続けていきましょう。